ケイコ 目を澄ませて/岸井ゆきの

「映画」らしい映画。音が少なく、光の映像が際立つ。

ドラマと映画の線引きが難しい時代にアナログな映画だった。

 

ケイコは強い。作中のセリフである「人間としての器量が大きい」。

聴覚障がい者として、日常生活、ボクサーとして、仕事など、あらゆる場面でハンデや生きづらさを抱える中で、それらを丸ごと受け入れている強さが際立つ。ことさらに嘆いたり悲劇のヒロインぶったりしない。

「自己の置かれた境遇をあるがままに受け入れる」簡単なようで難しい。

 

トレーナーとのミットうちのシーンが秀逸である。

ほとんど無音の作品において、小気味良い、テンポの良い音が響く。

 

コミュニケーションの対比が面白い。

ケイコが通っているジムでは、会長、トレーナーともに顔を見て、口元の動きやホワイトボードを通じた筆談など、双方の息遣いが感じられるコミュニケーション。

新しく紹介されたジムではタブレットのアプリを使って無機質な印象を受ける。

洗練されたジムの雰囲気が、ケイコのジムとの違いが際立つ。

 

ケイコは新しいジムに通うことを拒否する。これはなかなかできることではない。会長が紹介してくれたこと、相手方も一見親切なこと、理性や頭で考えると受け入れてしまうところだろう。それでもケイコは自分自身の感覚、「なにかイヤだ」を頼りに判断する。周囲の意見や空気に惑わされずに、自分自身の感覚を頼りに判断できる人は強い。

 

コロナ禍において、しっかりと社会情勢を踏まえて描かれている点も面白い。

PLAN75/倍賞千恵子

「映画の中のこと」で片付けられない不安感、不快感が残る。

今現在のお年寄りよりも、40代、50代の心に響く。近い将来にありうるかもと考えさせられる。

「75歳以上のお年寄り」と一括りにされた先には、個々の人格、尊厳、一人一人の物語がある。

 

コールセンターの子(河合優実)の演技がすごく良い。

最後の電話のシーン、その後の電話はいったい誰にかけていたのだろう。

 

人と人との関係の構築、真剣に向き合うことでしか得られない関係性がある。

 

「ただ生きている」そのことに価値がある。

 

劇中に出てくる献血手帳、「生きた証」を示唆しているのだろう。

空気階段、東京03コントライブを見て

芸人のコントライブを生で初めて見た。

空気階段「無修正」、東京03「寄り添って割食って」。

全体構成が面白い、すべてのストーリーがつながっている。

テレビやYoutubeで細切れで見ているとわからない。全編を通して見ないと魅力が伝わらない。

演者と観客の一体感がすごい。

たくさんの芸人が交互に出演する劇場と違って、演者のことが好きな人たちが観客として集まっている。演者はノビノビと好きなことを目いっぱいやれる楽しさ。

 

空気階段の魅力の一つとして、キャラが立っていることが挙げられる。

あのキャラクターにまた会いたいと思わせる。いわゆる「推し」のキャラ。

メガトンパンチマン、田所(でんじょ)さん、演歌歌手の潮騒さん、、、

 

東京03はファンに愛されていることが伝わる。往年のドリフみたいなものか。

ファン層も40~50代が多い。更に上の世代もいる。

東京03のコントは「日常」がテーマ、大げさなキャラ設定ではなく、クスッと笑える感じ。

 

また来年も生で見たい。

 

 

 

娘の読書感想文

小3の娘が夏休みの宿題で読書感想文を書いていた。

しばらく前に祖母に買ってもらった「ウォルト・ディズニー」の伝記マンガについて書くらしい。

内容を見ると、「ウォルト・ディズニーは〇〇年にアメリカの〇〇で生まれた。〇才の頃に家族で〇〇に引っ越した。・・・」

あらすじをまとめていた・・・。。

妻が「読書感想文というのは、あらすじをまとめるものではなく、本を読んで感じたことや感動したこと、考えたことを書くんだよ」と伝える。

それを聞いた娘のコメント「じゃあ、本を全部読まないといけないじゃん!」

読んでないんかい~!

高野豆腐店の春

藤竜也がすごく良い。カッコよくて、チャーミングで、時にカッコ悪くて。愛すべきキャラクターを見事に演じている。

生きていく上で、自分自身が大切にすべきものは何かを考えさせられる映画。

豆腐作り、娘の春、友人、大切なものがハッキリとしている人は強いし、人生を楽しむことができる。

生きていることをそのまま楽しめる人になりたい。

美味しいものを食べる、友人と楽しくおしゃべりをする、家族との時間を大切に過ごす。

好きなシーン。ひと仕事終えた父と娘が出来立ての豆乳を一緒に飲む。

何百回、何千回と繰り返されてきたであろうこの瞬間、味わい深いシーンである。

「ありふれた日常を愛する」そんな映画である。

歌ソムリエ

その人の、そのタイミングにあった、歌を紹介する「歌ソムリエ」があってもよいかも。すでにアプリとかであるのか!?

 

安室奈美恵さんの歌。

何かに向けて頑張っている人、目標があって頑張っている人。

心折れそうになりながら、まだギリギリのところで踏みとどまっている人には響く。

仕事でツライことがありながら、まだなんとか頑張っている状態で聴くと、ボロボロ泣ける。イモトなど、芸能人にファンが多いのもわかる気がする。

しかし、、完全に心が折れた、壊れてしまった、どん底、みたいな人にはどうだろうか。。

 

マツコが言っていたが、ミスチルやドリカムは、いわゆる「リア充」が聞く音楽だと。

マイノリティの世界で頑張っている人には、全くピンとこないのだと。

 

昔、キャバ嬢におすすめされた、「タテタカコ」さん、暗すぎて自分には全く響かなかった・・・。おそらく、自分の生まれ育った環境が比較的恵まれていて、いわゆる「人生のどん底」みたいやつを知らないのだろう。

ボクたちはみんな大人になれなかった/森山未來、伊藤沙莉

すごく面白かった。2021年の一番かな。寝るヒマがない。

 

森山未來演じる主人公の佐藤、46歳。

自分自身が生きてきた時代、年代が重なるので感情移入しやすい。

劇中の時代背景の頃、自分は何をしていたかを思い出す。

 

劇中歌、ガラケー、ポケベル、文通、顔も連絡先も知らない相手との待ち合わせ、公衆電話の10円玉などなど、、時代を感じる。

大学1年生の頃に、地元の恋人と文通をしていたのを思い出す。

 

尾崎豊のアイラブユーのシーンがすごく良い。新宿ゴールデン街のスナック。

若すぎる2人の愛。登場人物の中でスーちゃんが一番好き。「ふつうが一番良い。」

悲観するでもなく、現実を受け入れる強さ、たくましさ、の中に垣間見える儚さ。

 

東出くんの存在感。出てくるだけで「華」がある。いい役者だなあ。

 

若いころ、コンサートやお芝居を見たときに、「なぜ自分はこちら側の人間なんだろう、あっちに行きたい。」と感じていた。

 

自分の「普通」を受け入れていく過程が「大人になる」ことか。